自分のこと

分からないって、怖い

幼い頃、実家は理容店を営んでいた。父と母が店に立ち、お客さんが絶えず来店する賑やかな店だった。まだ小学校に上がる前などは、しょっちゅう店に降りて(店の二階が住居だった)、お絵かきをしたり、子供番組を観たりしていた。常連さんたちの間では、床屋の看板娘としてかわいがられていたものだ。
そんな日々の中で、忘れられない事件がある。「ハイヤーって何?事件」とでも呼ぼうか。店には、待合スペースに、大量の漫画雑誌や単行本が置かれていた。そのほとんどは、少年漫画だった。ある日、私はある有名ギャグ漫画を読んでいた。その中で、主人公がハイヤーで学校に来るというシーンがあった。しかし、私はハイヤーが何かが分からない。そこで、父と居合わせた常連客のおじちゃんに「ハイヤーって何?」と漫画を見せながら聞いたのだ。すると二人は、ハイヤーが何なのかを教えてくれた。なぜか大笑いしながら。
大人になってから、再びその漫画を手に取る機会を得た。懐かしいな、と思いながらページをめくると、なんとそれは下ネタぎっしりのド変態漫画だったのだ。私は悟った。あの日、二人が大笑いしていた理由を。そりゃあ、こんな漫画を訳も分からず読む幼子、おもしろくないわけがない。
私は、そっと漫画を閉じた。分からないって、怖いことだなと思いながら。